導入
前回の記事では、給食業界に転職して感じた「3つの絶望」と「5つの救い」について、包み隠さずお話ししました。
読んでくださった方の中には、こう感じた人もいるかもしれません。
「決まったメニューを、決まった手順で作るだけなんでしょう?」 「ルールでガチガチに縛られて、料理人としての創造性なんて発揮できないんじゃないか」
正直に言うと、私自身もフレンチの厨房を経験したあと給食業界に飛び込んだとき、同じ不安を抱えていました。
でも実際に5年近く現場で働き、店長として施設のマネジメントを任されるようになった今、はっきり言えることがあります。「給食の仕事はつまらない」というのは、外から見た人の勝手なイメージにすぎません。
なぜ「つまらない」というイメージが生まれるのか
このイメージが生まれる理由は、給食の仕事を「調理作業だけ」で捉えているからだと思います。
たしかに、毎日のメニューは決まっていて、自由に創作料理を出すような場ではありません。衛生ルールも厳しく、決められた手順を守ることが最優先です。ここだけ切り取れば「つまらない」と感じるのも無理はありません。
でも、私が実際にやりがいを感じているのは、調理そのものよりも「店舗をどう運営し、利用者やスタッフにどう向き合うか」というマネジメントの部分です。
フレンチの経験が給食の現場でどう活きたか
30歳から1年間、ホテル料理長経験のあるシェフのもとでフレンチの基礎を学び直しました。この経験は、レシピの技術そのものよりも「食材の扱い方」「味の組み立て方」「限られた条件の中で最大の満足度を出す考え方」として、今の仕事に活きています。
給食の現場は、コストや栄養バランス、利用者の年齢や体調といった制約が非常に多い環境です。この「制約の中でどう工夫するか」という発想は、フレンチの厳格な技術や理論を学んだ経験があったからこそ、自然と身についたと感じています。
決められたメニューであっても、盛り付けのひと工夫や、食感・彩りへの気配りで、利用者の食事の満足度は大きく変わります。技術がある人ほど、この「小さな工夫」の引き出しが多いのです。
イベント行事では、自分で考えた献立を形にできる
「決まったメニューを、決まった手順で作るだけ」というのは、実は日常の食事に限った話です。施設によっては、季節ごとのイベント行事で特別食を提供する機会があり、そこでは自分の考えた献立をそのまま形にできます。
私の現場では、月に1〜2回ほど、利用者の方々に特別食として自分で考えた料理を提供する機会がありました。洋食であれば、オードブル・スープ・ヴィアンド・デザートまで一通りのコース料理を自分で構成し、旬の野菜を取り入れながら、季節感のあるメニューに仕上げます。
中でも印象に残っているのは、グリドルなどの機材を使い、牛肉をお客様の目の前で焼いて提供するライブ感のある演出です。普段の給食ではなかなかできない「目の前で調理する楽しさ」や「フレンチで培った盛り付け・味の構成」を、こうしたイベント食では存分に活かすことができました。
利用者の方々の「美味しかった」「今日は特別だったね」という反応を直接見られるのも、この仕事ならではの醍醐味です。日々の業務では見えにくい部分ですが、こうした機会があることも、給食業界の知られざる面白さの一つだと思います。
店長としてのやりがい:スタッフと利用者の両方と向き合う
フレンチの厨房でスタッフの一員として現場に立っていた経験、そして現在の給食業界での店長職。どちらにも共通しているのは、「自分一人で完結する仕事ではない」ということです。特に店長になってからは、スタッフのマネジメントや施設との調整など、フレンチの厨房では担っていなかった役割を新たに任されるようになりました。
- スタッフのシフトを組み、それぞれの強みを活かした配置を考える
- 施設のクライアント(介護スタッフや管理者)と連携し、利用者の状態に合わせた食事内容を調整する
- 新しく入ったスタッフに、調理の基礎や衛生ルールを一から教える
これらは、個人経営の飲食店で一人のオーナーの指示のもとで働いていたときには経験できなかった仕事です。人を育て、チームで成果を出す面白さは、料理そのものとはまた違う達成感があります。
「つまらない」のではなく「見え方が違う」だけ
料理人としての創造性を存分に発揮したい人にとっては、給食の仕事は物足りなく感じる部分があるかもしれません。それは事実として否定しません。
ただ、「決まった枠組みの中で、いかに工夫し、いかにチームを動かし、いかに利用者に喜んでもらうか」という視点に立てば、給食のマネジメント業務は決して単調な作業ではなく、むしろ奥の深い仕事だと、私は5年間の経験を通して実感しています。
結び
ここまで3回にわたって、私自身の挫折の経験、給食業界のリアルな実態、そしてそこで見つけたやりがいについてお話ししてきました。
次回は、実際に私がブラックな飲食店から抜け出すために使った転職サイト・エージェントを、実体験ベースでご紹介します。「元金融マンの自分でも、飲食からのスカウトがあった理由」や、「絶対に使ってはいけない転職サイトの特徴」についても触れていきますので、ぜひ読んでみてください。

コメント